大判例

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神戸地方裁判所 昭和63年(行ウ)29号 判決

原告

尾崎隆(X)

右訴訟代理人弁護士

田中康之

被告

兵庫県知事(Y) 貝原俊民

右訴訟代理人弁護士

池上徹

右被告指定代理人

高見成志

石井孝一

出口秀雄

松尾光明

赤松恒夫

山本義男

廣田美清

林真弘

事実及び理由

第三 争点に対する判断

一  争点1について

1  この点について、被告は、次の理由で、原告には本訴を提起するにつき法律上の利益がないと主張する。

(一)  原告の所有にかかる土地は、本件処分の前後を通じ農地であるから、原告が当該農地にその営農上の機能効用を発揮させる上において、本件処分は何ら影響を与えない。

(二)  原告は、本件処分の後に同土地が本件処分に伴う制約下にあることを知悉しながら、大屋町から別紙物件目録(三)、(四)記載の土地を買い受けている。

2  しかし、(一)について検討するに、〔証拠略〕によれば、法三九条に基づき制定された条例の七条は、災害危険区域内においては、住宅(併用住宅、共同住宅及び長屋を含む。)、寄宿舎、下宿その他規則で定める建築物は、知事が同条に定める場合に該当する建物で、安全上又は避難上支障がないと認めて許可したときを除き、建築してはならないと定めていること、また、条例の八条は、災害危険区域内における居室を有する建築物の構造は、同条に掲げるところによらなければならないとし、例えば、地すべり又は急傾斜の崩壊による危険の著しい区域内における建築物については、水圧、土圧、衝撃等に対して、構造耐力上支障のない鉄筋コンクリートブロック造、補強コンクリートブロック造、鉄骨造その他これらに類する構造とすることと定めていることが認められる。

そして、右の定めは、農地に関する各種規制を定める農地法には何ら定められていない事項であることは明らかである。

原告は、本件処分の前後を通じ、自己所有地を農地としての使用を継続しているところ、右所有地に建物を建築する等、これを農地から他に転用しようとする際には、農地法に定められている手続のほかに、右条例の定める手続を必要とすることになるが、これは、原告の所有権に対する重大な制約というべきであり、これにより、原告は、本件処分により、自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され、又は必然的に侵害されるおそれのある者ということができる。

3  (二)についても、確かに原告は本件処分の後に別紙物件目録(三)、(四)記載の土地を買い受けているが、当該土地について、本件処分により自己の所有地が農地法による制限以上の制限を受けることになる点にかわりはないのであるから法律上の利益を有すると解すべきである

4  したがって、被告の主張は採用できない。

二  争点2について

1  災害危険区域の指定のための要件

(一)  原告は、国及び他方公共団体は、傾斜地に危険防止の工事を施し国民の身体の安全や財産の保全を図るのが本来の責務であるから、当該土地を災害危険区域と指定し、その国民による利用を制限できるのは、危険防止工事を施すことが不可能な場合又は危険防止工事を施工できるようになるまでの一時的な期間に限られるべきであるし、国民の身体や財産に対する危険が高度に現実化している場合でなければならないところ、別紙図面のAブロックについては、砂防堰堤の増設・滞留土砂の排除、明延川堤防のかさ上げ補強等、Bブロックについては、落石防止柵の補強、Cブロックについては、落石防止施設の設置及び定期的な保守、竹林の維持・表層の除去等の危険防止工事を行うことにより、危険の防止が可能であるし、また、各ブロック共、危険が高度に現実化している地域であるとは認められないと主張する。

(二)  そこで、災害危険区域として指定するためには、著しい危険の存在以外に原告の主張する要件が必要かについて検討する。

法三九条及び条例三条一項の規定の趣旨は、津波、高潮、出水等による危険の著しい区域を災害危険区域と指定して区域内における建築物について災害防止上必要な建築制限を行うことにより、災害から国民の身体の安全・財産の保全を図るという点にあると解せられる。

そうであれば、国又は他方公共団体は、著しい危険のあると認められる地域を指定して建築の制限をした上で、速やかに当該地域について危険防止工事を実施し、それにより危険が消滅した場合に指定を解除するというのが、法及び条例の趣旨に最も適すると考えられる。したがって、災害危険区域に指定するための要件としては、著しい危険の存在のみで足り、原告が主張するような点は要件となるものではないと解すべきである。

国及び地方公共団体に危険防止の責務があるとしても、危険の除去が不可能な場合や危険防止工事の施工までの一時的期間に限って指定をするというのは、順序として逆であるし、工事が遅れた場合に国民の身体及び財産の保全を図ることができない点で原告の主張は妥当でなく、採用できない。

2  本件区域が、法三九条及び条例三条一項四号にいう危険の著しい地域に該当するか否か〔略〕

3  本件調査の適法性

(一)  この点、原告は、被告は条例四条の現地調査として、基礎地盤コンサルタンツ株式会社に依頼した調査(以下「本件調査」という。)のみしか行っていないが、この調査は、現地の地表の踏査、現地住民少数の聞き込みを主とし、テストボーリング等も実施していないし、地形・地質・土質・降水等の報告は、他の文献に頼ったおざなりなものであり、また、別紙図面のA、B、Cの各ブロックの範囲が不明確なまま行われているから、住民の権利に重大な制約を加えるための調査としては不十分であると主張する。

(二)  しかし、〔証拠略〕によれば、災害危険区域の指定をするか否かを決定する資料とするために外部の専門コンサルタントヘ委託をするということは一般に行われていることであり、本件調査を委託した基礎地盤コンサルタンツ株式会社は、土質関係では相当高度な専門技術を保有している全国組織の会社であることが認められるし、テストボーリングは、〔証拠略〕によれば、具体的な危険防止のための対策工事を実施するに当たっては必要であるというもので、災害危険区域の指定に当たっての調査にまで必要であるとは解せられないから、おざなりな調査であるとの原告の主張は採用できない。

(三)  更に、別紙図面のA、B、Cの各ブロックの明確性についても、〔証拠略〕によれば、本件の指定に関し、次の事実が認められる。

(1) 災害危険区域の指定範囲は、被害の予想される範囲(以下「被害区域」という。)を想定して行うが、各ブロックは、単純に一本の線で分けられるものではなく、重複している部分もあり、大まかに分けたものにすぎない。

(2) 土石流の被害区域は、土石流発生場所から下流の川との合流点までが一般的な目安となっており、本件でも明延川との合流点までを被害区域とした。

(3) 急傾斜地の崩壊による被害区域は、一般的に、急傾斜地の下端から水平距離が急傾斜地の高さの二倍から三倍の距離を想定している。

本件では、被害区域は、急傾斜地の下端から、最低でもBブロックでは六〇メートル、Cブロックでは四〇メートルの区域が該当するが、本件区域は四〇メートルの地点で明延川に達するため、その地点までを被害区域とした。

(4) 斜面の傾斜方向と直角の方向については危険の著しい急傾斜地の幅で区域を指定した。

(四)  これらの事実からすれば、A、B、Cの各ブロックの境が明確でないからといって調査が不正確であるとはいえないし、本件の指定範囲は全体として明確であることが認められる。

(五)  したがって、本件調査が不十分であるとの原告の主張は採用できない。

4  別紙物件目録記載の各土地に対する指定の適法性

(一)  原告は、別紙物件目録記載の各土地は、本件区域の南西端付近に存在するが、その背後地は急傾斜ではなく、人手が入って階段状になった段々畑であり、崩落の可能性は減少している。また、江戸時代以来今日まで地すべりや地盤崩壊の事実もなく、条例三条一項四号にいう急傾斜地の崩壊による危険の著しい区域ということはできないと主張する。

(二)  しかし、〔証拠略〕によれば、原告所有の土地及びその背後地は別紙図面のBブロックに該当し、背後地の傾斜度は三〇度ないし四五度の急傾斜の段々畑で、崖錐堆積斜面上に何段もの石積み擁壁が設置されている地域であることが認められる。

このような地域は、既に述べたとおり、雨で地盤が緩んでいる時に石積み擁壁の一部が崩れた場合、その下部の土地が盛土をされた状態になり、一部の岩石や土砂の崩落のみならず、雨で弛んだ斜面の崩壊を引き起こすおそれが著しく、斜面の崩壊による危険の著しい地域であることが認められる。

(三)  したがって、別紙物件目録記載の各土地は危険の著しい区域ではないとする原告の主張は採用できない。

三  争点3について

1  この点、原告は、被告が本件区域を災害危険区域に指定したのは、その指定の当時、同区域に同和集落があったので、その移転を円滑に行う理由付けのためにされたものであるから、本件処分は違法であると主張する。

2  しかし、〔証拠略〕によれば、本件処分をするに至った経緯に関して、次の事実が認められる。

(一)  昭和五〇年一〇月に大屋町長から被告に対し、本件区域について、過去の降雨時に床下浸水、土砂崩落等があり、危険な場所であるとして、災害危険区域の指定に関する要望が出された。

(二)  これに基づき、被告は、昭和五一年二月、基礎地盤コンサルタンツ株式会社に現地調査を委託した。

(三)  被告は、右調査結果及び兵庫県の防災関係部局との協議を行った結果に基づき、本件区域を災害危険区域に指定することが妥当であるとの判断に至り、本件区域を指定することについて、昭和五二年一月に大屋町長に意見を求め、同町長から指定に同意する旨の意見を得た。

(四)  被告は、同月、兵庫県宅地保全審議会に諮問し、指定が妥当である旨の答申を得た。

3  これらの事実からすれば、本件処分の主たる目的は、災害の防止という法の本来の趣旨に沿うものであったと認めることができるから、結果として、同和集落の移転の円滑な実施に資することがあったとしても、そのことにより本件処分を違法ということはできない。

第四 結論

よって、原告の本件請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 辻忠雄 裁判官 吉野孝義 伊東浩子)

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